白色の鉛筆

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『夏のカケラ』   私は待っていた。 そこは一年に一回。 月がもっとも近づく、この日にだけ現れる小さな砂浜。 足を進めるたびに、白い星砂が気落ちのいい音をたてる。    あの日もこんな満天の星空だった。 波にのまれ、溺れた私を助け 必死にこの砂浜に運んでくれた。 ちゃんと姿も見られず、過ぎ去っていくその背に手を伸ばしただけ。 私は一方的に必ず会いに来るからと、思いを伝えただけ。   だから、ただ待つしかできなかった。 会えるかなんて分からない。 覚えているかも分からない。 でも、伝えたい。 その思いだけで、ここに居る。 私はここに居るよ。    思いは小さなうねりと共に、沈んでいく。 ゆっくりと小さくなる砂浜が、終わりを告げるようで 心に潮風が吹き込む。   やはり会えないのだろうか? 諦めかけたその背後で、水飛沫が突然立ち上がる。 私はその姿を見つめた。 水のシャワーを輝かせ、踊るように体を煌かせ、再び海へと還っていく。   やっと会えた喜びに、笑みがこぼれる。   「ありがとう」   海に向かって精一杯声をかける。 その声が届いたのか、少し離れた波間で、再びイルカがジャンプをした。   私はもう一度お礼を言った。 会いに来てくれてありがとうと。
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