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『祈り』
頭に血が昇っていたんだ。
そう反省しながら、彼女への謝罪の言葉を探しながら部屋へ戻ってきた。
そこに彼女はいなかった。
部屋は暗く、外からの街灯の明かりだけが薄っすらと照らす。
居なくなるなんて思っていなかった。
思考は、一瞬途絶え慌てたように頭の奥で警報が鳴り響く。
僕は部屋を飛び出した。
まだ、早い。
行くな、いかないでくれ。
そう切に願い、屋上の非常ドアを開けた。
彼女はどこに……
やっと見つけることが出来たのは、屋上の隅に揃えられた君の靴と、婚約指輪だった。
僕は、結局彼女の一番にはなれなかった。
そう後悔しながら、屋上の淵から下を覗いた……
いない。いや、あるべきものがないと言った方が正しいのだろう。
「どこに行ったんだよ……」
嘆くように言葉をもらし、天を仰いだ。
今にも降り出しそうな重い雲が、迫ってきている。
彼女はどこかにいる。
でも、もう自分の手が届かないところに行ってしまった。
それとも、やはり一緒にいってしまったのだろうか……
どのみち、僕は謝るチャンスすら失ってしまったのだ。
彼女が最後まではめてくれなかった指輪を眺め、溢れてきた後悔の雫を流してくれと……早く降れと天に願った。
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