黒の色鉛筆

4/9
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
『祈り』   頭に血が昇っていたんだ。 そう反省しながら、彼女への謝罪の言葉を探しながら部屋へ戻ってきた。   そこに彼女はいなかった。 部屋は暗く、外からの街灯の明かりだけが薄っすらと照らす。  居なくなるなんて思っていなかった。 思考は、一瞬途絶え慌てたように頭の奥で警報が鳴り響く。   僕は部屋を飛び出した。 まだ、早い。 行くな、いかないでくれ。   そう切に願い、屋上の非常ドアを開けた。   彼女はどこに……    やっと見つけることが出来たのは、屋上の隅に揃えられた君の靴と、婚約指輪だった。   僕は、結局彼女の一番にはなれなかった。 そう後悔しながら、屋上の淵から下を覗いた……   いない。いや、あるべきものがないと言った方が正しいのだろう。   「どこに行ったんだよ……」   嘆くように言葉をもらし、天を仰いだ。 今にも降り出しそうな重い雲が、迫ってきている。   彼女はどこかにいる。 でも、もう自分の手が届かないところに行ってしまった。 それとも、やはり一緒にいってしまったのだろうか……   どのみち、僕は謝るチャンスすら失ってしまったのだ。   彼女が最後まではめてくれなかった指輪を眺め、溢れてきた後悔の雫を流してくれと……早く降れと天に願った。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!