虹色の鉛筆

黒の色鉛筆

『雨』

全てが洗われていく。
過去も現実も、未来も……

肌を伝う雫が、妙に冷たく心地良い。
頬から耳へ……首筋から指先まで、全てをなぞるように、優しく流れていく。
視線の先に見えるのは幾重にも雲の重なり合った曇天の空と、降り注ぐ雫だけ。

指先は重く、静かに沈む。
泥土に埋まっているのか、埋まっていくのか……それは既に分からない。
落ち着いているのは、この音が記憶の何処かにある母の胎内を思い出させているからかもしれない。

泥土を流れ行く水は、赤黒く濁る。
素肌に張り付くシャツに滲んだ、鮮血すらも、静かに洗い流されていく。
洗われた肌に、不浄の色はもうない。
それはこの寒さと失われていく体温で、美しいほどに白くなっていた。

睡魔の訪れのように、ゆっくりと意識が溶けていく。
優しい音に抱かれながら、終わるのもいい。
そう思いながら、瞼を閉じた。