黒の色鉛筆

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『螺旋』   これで何回目だろうか。  いくつ潜り抜けたか分からない、見慣れたドアが目の前に立ちはだかっている。  それは何の変哲もないただのドアである。  どことなく古めかしい木の板に、鈍く光るドアノブが一つ。  鍵はついていない。    周囲には青黒い闇が果てしなく広がり、後ろにここまで上ってきた小さな階段がトグロを巻いているだけだ。    つまり、このドアは終点。 そうなるはずだった……    深く息を吸い、心を落ち着けドアノブに手をかける。  今度こそ。そう思いながら、ゆっくりとドアを開けた。    開けた瞬間、まぶしい光が両脇を通り抜ける。    うっすらと開いた瞳に映るのは、忘れていた自分の人生。    あぁ、僕は…………    自分がどうして、こんなに苦しんでいるのか。その全てを悟りながら、  静かに意識は光に飲み込まれていった。    目を覚ますとそこは小さな部屋だった。  朦朧としながら、目の前の見慣れた階段を見つける。  また上るのか。終わらない苦しみに頭を抱えながら、再び階段に足をおいた。    一段。また一段と、渦をえがく階段をのぼる。 なんでこんな目にと思った自分には、もうさっき見たはずの記憶はない。  ただ疑問を抱きながら、ここから出なきゃという思いだけで階段をのぼる。    ふと足が止まった。    自分が目を覚ました部屋が、足元に見える。    そこにドアがあった。    階段とは反対側に。ちょうど背を向けていたほうに小さなドアがある。  なぜ、気がつかなかったのだろうか。  そう驚きながら、再び足を進め始めた。  戻ってあのドアを開けて、あの向こう側を確かめる時間も余裕もあったはずだ。  だが、不思議と戻るという選択肢がなかった。    さらに足を進め、再び古めかしいドアの前に立った。  そしてドアを開け、気がつくのだ。    僕はあのとき、戻っていれば良かったのだと。  ただ、がむしゃらに目の前のことばかり追われ、振り返ることを躊躇した自分の人生に後悔しながら。  僕はきっとここから出られないのだろうと悟る。    その道に迷いも疑いも抱かず、そういう人生を歩んできたのだから。    だから繰り返すスパイラルに、囚われてしまったのだと。        さあ、再び上ろうか。この階段を……
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