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『旅立ち』
静かに静かに足音が聞こえる。落ち葉を踏みしめ、小枝を折り、あれは確かに人の足音。
ここだと叫びたいが、僕の声は既に枯れている。
大手を振りたくとも、その手は何処かへと持ち去られてしまった。
体を起き上がらせようとも、ほとんど落ち葉の下。
だから今日も僕は見つけられない。そう、空虚な目で空を見上げ続けた。
風に揺られ、葉が囁きあっているようだ。上空に見える小さな青が、唯一外界との小窓のようにも見えた。
この竹林に来た頃は、もっと空は広かったような気がする。
時が経ちすぎたのだ。
足音はもう聞こえない。
分かっていたが、涙の代わりのように朝露が零れた。
その時。一陣の風が通り抜けていく。
細い竹たちがその身をしならせ、飛んできた帽子を捕まえた。
――足音が向かってくる。
「あったぞ!」
大きな声と共に、顔に掛かった落ち葉を丁寧に払われ、僕の姿が外に現れる。
他の人たちも合流してきた。
皆が僕に手を合わせてくれる。
やっと見つけてくれた、それだけでいい。
僕のしゃれこうべが持ち上げられ、静かに袋の中に納められる。
闇が僕を迎える。
やっと僕は、二年見上げ続けた青空と別れることが出来た。
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