45人が本棚に入れています
本棚に追加
声が聞こえた直後、頭の中で何かがガラスの様に砕け散った。
耳を澄ませば、近くにあるであろう川のせせらぎが鮮明に大和の耳に入る。
目を開けば、さっきまでは捉えきれなかったキングコングの動きもコマ送りとまではいかないがはっきりと目で追える様になっていた。
(な、なんだ? 俺が俺じゃないみたいだ)
まず、上から降り下ろされる巨大な拳をバックステップで回避する。
「なっ!?」
数メートル程後退したところで声をあげる大和。
驚くのも無理はない。
一メートル程跳ぶつもりが、何故かその三倍以上の幅を跳躍したからだ。
(これなら……行ける!)
大和の目には、さっきの絶望に満ちた色は一片もなく、逆に、勇気に満ち溢れた色を灯していた。
そして、自分の渾身の一撃を回避されたキングコングも地団駄を踏みながら鼻息を荒げる。
(……絶対…………生き残る!)
大和の決意と同時にキングコングも大和向けて走り出す。
そして勢いよく右拳を降り下ろす。
激しい轟音と共に着弾地点からは大量の砂埃が舞う。
だが砂埃が風によって消え去ったその場所に大和の姿は無かった。
最初のコメントを投稿しよう!