9人が本棚に入れています
本棚に追加
「獄門島!?」
「そう、ゴクモントウ。」
昭和83年、12月。
上背村(かみせむら)の一件から早2ヶ月が過ぎて。
銀座裏のどこかにある三角ビル5階の一室で、そのやりとりはあった。
方や興奮気味に身を乗り出したセル地袴の少女、方や高級かつ上品なスーツを着こなした金髪碧眼の男性。どう考えても不思議な組み合わせ。
しかし彼女たちは当たり前にこうしているのだった。そう、当たり前に。
「まあ座りたまえ、日芽。」
落ち着いた男性の言葉に、少女は素直に従う。
この少女、名を金田一日芽(きんだいち ひめ)と言い、かの有名な探偵金田一耕助の孫娘でもあった。幼い頃から祖父の影響を受け、祖父が昔解決したと言うむつかしい事件の真相を訊く度にただの感嘆はやがて尊敬と憧れへ変わっていったのだ。
不気味な殺人、謎。本来ならば迷宮入りになったであろうその謎を解いてきた祖父は、名探偵金田一耕助はなんて素晴らしい探偵なのだろう!
それら全てを動力に高校卒業後はすぐに家を飛び出して、此処で探偵事務所を開いている、と。そんな生い立ち。
そして日芽は今、異常とも見える熱気を放ちながらテーブルを挟んで対峙する男性を見ていた。一応ソファーに腰掛けてはいるものの、その右足はせわしなく小刻みに揺すられて落ち着かない。
ガタガタ、ギシギシ。
揺れを受けて、熱気を受けて、テーブルもソファーも答える。
貧乏揺すりと呼ばれるその行為は、感情が高ぶった時に出る日芽の癖だった。
相変わらずだな、と男性は――クリスティは思う。
クリスティ。本名はChristian Cartis(クリスティアン・カーティス)。彼は英国人と日本人のハーフで、幼い時を英国で過ごしていた。現在はこの日本で、若いながらも警部の肩書きを持っている。
日芽とはひょんなことから知り合いになり今に至るのだが……、それはまた今度おはなしするとしよう。
最初のコメントを投稿しよう!