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一行、只今海の上。
「うえぇぇぇ……!」
「ちょっ、クリスティー殿!淑女の前でリバースしないで下さいよ、紳士でしょう!」
「はて、どこにしゅくじょがいるやら……うぇっぷ!」
「ぎゃー!」
また胃の中身をひっくり返しそうな様子のクリスティーに、日芽は2mほど遠ざかる。走って。
からんからん、下駄の音。それもやがて、船を走らせる耳障りなモーターに消されていった。
日芽とクリスティーと運転手、それと佳代(幽霊だが)しか乗っていない漁船のような小さな船。波を切る度に激しく上下に揺れている。手すりに掴まっていないと落ちてしまいそうだった。
特にクリスティーは、いつリバースが来ても良いよう常時船縁に張り付いていた。絶賛船酔い中。
荒々しい運転と時化てきた海の絶妙なタッグで、彼の具合は最悪だったのである。
佳代が心配げに覗き込む。だが彼に触れることの出来ない幽霊は背中をさすってやることも出来ずに、ただ「大丈夫?」と声をかけるだけだった。その声も届かないのは知っているけれど。
「そういえば、ボクたちは何の捜査に行くんですか?」
クリスティーの具合が当初よりも大分良くなった頃、日芽は訊ねた。
「いってなかたか?」
「全く。」
クリスティーは手すりの側にあった椅子に腰を下ろして背をもたれかけ、日芽に向きなおった。
途切れ途切れに息を挟みながら答える。
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