プロローグ

3/3
前へ
/211ページ
次へ
「もっと遊んであげればよかった。もっと散歩に連れて行ってあげればよかった。」 友達はそう嘆いていた。本当にそうだろうか?犬は本当にそれを望んでいたのだろうか? その犬の一生は鎖に繋がれていた。その鎖から解き放たれて、自由になりたかったかもしれない。朝、犬小屋で発見されるのではなく、飼い主の胸に抱かれ、生涯を終えたかったかもしれない。 私は嫌な奴だ。でも、犬の言葉は解らない。犬の声は届かない。 私のときは? 病院の一室。窓の外には桜が咲き誇っている。子供達と孫達に囲まれる私。尽きることのない、別れと感謝の言葉。 旦那は数年前に先に逝ってしまった。きっと天国で寂しがっている。 「待ちくたびれたでしょ?ごめんね。でもそれも終わり。もうすぐそばに行くわ。これからはずっと一緒だよ。これからもよろしくね。」 そして穏やかな笑顔のまま、一筋の涙を流し、人生の幕を閉じる私。泣きながら別れを惜しむ家族。 「あぁ。私の人生は素敵だった。」 こんな感じになると思っていた…。
/211ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加