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気が付けば時計は十九時を回り、美紀が出て行ってから、既に五時間は過ぎている。
俺の心臓は急激に高鳴った。嫌な予感が過ぎる。気が付くと俺は外に駆け出していた。
「美紀……」
俺は思いつく限りの場所を走り回る。家の近所、駅前の商店街。しかし、美紀の姿は見当たらない。
はぁ……はぁ……
久しく運動なんてしていなかったから、息が切れる。この胸騒ぎはなんだろう。心臓が締め付けられて苦しい。走って息が切れてるから?違う。不安で心臓が握り潰されそうなんだ。
初めてデートした公園──
ふとそれが頭を過ぎった。俺は全力で公園へ向けて走った。
公園に辿り着くと、中に入り遊具を見回す。砂場。滑り台。ブランコ……
美紀!
俺はブランコに美紀の姿を見つけた。すると突然、涙が込み上げてきた。
「美紀!」
俺は名前を叫ぶ。そして、ブランコに駆け寄る。涙で視界がぼやけてはっきり見ることができない。俺は涙を拭った。
「美紀?」
確かにさっきまで見えていた美紀の姿が消えていた。錯覚。
そういえば、このブランコ、俺と美紀が初めてキスした場所だっけ。
まだ、一緒に暮らし始める前。初デートにこの公園に来た。二人で話しているとあっという間に時間が過ぎたっけ。美紀がブランコに乗っていて、俺はそれを囲う柵に寄りかかるように座って……
ブランコに乗って、ゆっくりと揺れる美紀。俺は意を決して、照れながら美紀に近づく。美紀は俺に気付かないふりをして、下を向いて、相変わらず揺れていた。でも、俺が近づき始めると、さっきまであんなにはしゃいでいた美紀は全くしゃべらなくなったから、俺が近寄っていることに気付いていないはずは無かった。そして、不意に顔を上げた美紀に俺はキスをした──
「美紀……」
俺はいまさらになって後悔した。なんで、もっと、優しくできなかったんだろう。なんで、あんなに辛くあたっていたんだろう。俺は、こんなにも美紀を好きなのに。
涙が止まらなかった。後悔の涙?悲しみの涙?止め処なく涙が溢れた。
どれくらい時間が過ぎただろう。俺はゆっくりと、アパートへと歩き始めた。
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