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『ここらに神社は?』
「神社なら‥この裏の森の奥に。でも今じゃ誰も、」
『そう、なら好都合じゃ。』
その言葉に何かを悟った様に顔を上げる彼女、その言葉を押し戻すように色付いた唇に指を当て首を振った。不満げな顔をしながらも口を閉じた彼女に小さく笑みを溢す。結い紐で髪を高くに結い上げ、辺りを見渡すと自分の荷物と言えるものは本当にこの身一つしかないらしい。
よくもこんな怪しい女を家に上げたものだと目の前の彼女を見下ろす。少女の様な顔で、まるで感情を隠す事なく表情を変えている様に見えるが‥実際、この娘からの本当の感情とやらは見えて来ない。
『(此方に害が無ければ構わないか。)』
適当に笑みを浮かべながら玄関を出る寸前にギュッとあの細い指が腕をつかんだ。
「わ‥」
「‥‥私、"すず"と申します。何か有ったら此処にお立ち寄り下さい。必ずですよ。」
腕を掴んだまま、顔を朱に染め上げて笑う彼女はまさに花の顔(かんばせ)。そこらの男ならころりと騙せるに違いない。
『"鈴"か‥わらわは花果、主も何かあればわらわの所に来るといい。』
「!はいっ」
『あぁそうだ、夜は止めておけ』
そう、特に赤い月の出ている日には―――‥。無闇に知らなくていい世界に足を踏み入れるものじゃない、無知は恥ずかしいことなんかじゃない無知は幸せ。
姿が見えなくなるまで手を振る鈴を後ろに森の奥へと足を進めた。もうすぐ日が沈む。
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