社の主

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『っ、は‥』 通常の人間よりも回復力の早い身体は傷跡一つ残らずに修復している。でも、不死身じゃない。だんだんと空気を吸えない口元がぱくぱくと鉢の金魚の様に酸素を求めて無様な姿を晒す。このまま首の骨が折れたとしてもこの身体は修復するのだろうか。 薄れそうになる意識を必死に繋ぎ止めようとする頭の片隅でも、冷静にそんな事が考えられる自分に自嘲の笑みが溢れそうになる。 『よそ、も‥の、』 「「!」」 最後の呟きに案の定、上に股がる男の腕が緩んだ。酸欠になりかけていた身体に大量の外気を吸い込めばまるで拒否反応かのように咳き込んでしまう。 『っ、はぁ‥余所者追い出してやってもよいぞ。』 「そんな話が信じられると思ってるのか。」 ここに来たときから、余所者の気配がしていたのは分かっていた。ここにいた主神がいなくなったのを良いことに空いた神殿に新しい神が住み着くのは珍しい事じゃない。"神"と一くくりにされているが、神にもいろいろな奴がいる。鬼や悪霊も神の一種。それを知らない人間達はこうして神が恐れ敬うべき存在だということさえ忘れてしまうのだ。 『迷惑しているのだろう?そ奴が来てからこの神社も廃れたと見える。』 「お前にアイツを‥あの女を追い出せる力が有るとでも、」 今まで黙っていた妹がジッとこちら方を見て首に掛かっている兄の手に触れる。 「白(しら)‥止めるってのか?」 「‥‥‥‥‥斎。」 気が立った兄は妹にでさえ飛び掛かって行きそうな視線を向けるも、ふいに指をさされ胸元のロザリオに目を止める。 『だから言っているであろう。妾が追い出してやると。』
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