赤の色

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あまりにも不自然なこの光景。 白んだ空に浮かぶ毒々しい赤い月が映る水面はまるで血の池地獄と言うのだろうか‥しかし何よりも不自然なのはその水面に波紋を立たせながらたゆたう白い女。入水かとも思ったが入水特有の死体の醜い姿ではない。ただ月を見上げるように仰向けのままフラリフラリと危うい足取りで岸に流れ着いた。 生きてる‥‥。 ある意味職業病か女の容態に俺は直ぐに立ち去らなかった事に後悔した。妙な女に見とれていたなど認めたくは無いのだがソレが事実、死んでいたのならそのまま捨て置く事も出来たのだが、生きていたとなれば話は別だ。 面倒な事になった‥拾って帰って自殺未遂だったとしたらなぜ助けたのだと責め立てられるのは目に見えてる。しかし、生きてるのを置いて帰るとなると目覚めが悪い。 「‥‥くそ、」 せっかくの一張羅の着物が濡れてしまうが仕方がない。ちょうど目の前に流れ付いた女の黒髪がゆらりゆらりと真っ赤な池に揺らめいた。本当に生きているのだろうか、瞳の閉じられた顔にはまるで血の気は無く背中に背負う身体は嘘のように軽かった。 (まさか、病人――‥) ふと頭をよぎった考えに小さくため息をはく。拾った以上捨て置く事は出来ない、背中に背負った重みに心無し沈みながらも俺は家へ急いだ。 季節は神無月、もう暖かい季節じゃない。
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