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甘い香り――‥これは、
ゆっくりと浮上する意識に、目蓋を持ち上げるのさえも億劫で堪らない。でも、ある意味嗅ぎ馴れたどんな香よりも甘い香り。
女の匂いだ。単純な男どもの思考には微弱でも致死量になるほどの猛毒。
「気が付かれましたか‥?」
ひんやりした細い指が慈しむように頬を撫でる。じんわりと頭に染みるそのコロコロとした声に息をのんだ。
「ご気分が優れませんか?」
余程難しい顔をしていたのであろう綺麗な弓形の眉がしゅん、と感情を隠すことなく下げられる。
改めて彼女の容姿を見て、ほぅ‥と小さく吐息を溢す。
白い細面に大きな瞳を縁取る睫毛が陰を落とし、ふっくらとキスでも望むような唇の朱。肩ほどまでしかない黒髪はまさに烏の濡れ羽のようで、白い着物とのコントラストがまるで人形でも見ているかのような気を起こさせる。
女の匂いを纏っていなければ、少年と言われようと疑わないだろう凛々しさも持ち合わせている様だ。
『いや、すまぬ。わらわを助けたのは主か?』
離れた指先に、ゆっくりと身体を起こせば首を横に振る目の前の彼女の頬に朱が差した。(あぁ、服が‥)残念ながら今更何も着ていない事をどうこう思うほどの恥じらいは持ち合わせていない。
『そう。しかし礼を言おう。
妾を助けた者にもそう伝えよ。』
「行く宛が‥?」
枕元に丁寧に畳まれていた下着(と言っても、腰布と胸当て)とアオザイに袖を通していると、これまた感情を隠すことの無い瞳がこちらを見ていた。
本当に‥表情のコロコロ変わる娘。
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