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夜は更けていく。
外には星空が広がり、静寂の中、聞こえるのは暗闇のどこかから鳴く夜鳥の低い鳴き声だけだった。
四方を山に囲まれた小さな村で、人々は眠りにつき、立ち並ぶ家の明かりは既に消えている。
しかしひとつだけ橙色の明かりが窓から漏れ、中の人間の笑い声がかすかに外に聞こえてくる場所があった。
酒場「寝ずの葉」。
そこは、交易路の山越えの為に逗留する、様々な職業の男たちの休息と憩いの場だ。
「……みんな心配してるよ。あんたの元気が無いってんでね」
人声の絶えない中、カウンターの奥に立つ給仕の女性がボールトに話しかけた。
日に焼けた肌が健康的な女性だった。大きな目と少々目立つそばかすが親しみやすい印象を受ける。
腕まくりをし、慣れた手つきでテーブルを拭いている。
「……あっちのテーブルでエルロイが噂してたよ。ボールトが沈んでるのは、投棄された美人の機械人器を修理してやって、そのあまりの美しさに恋しちまったからだって」
「あの野郎、出まかせを……」
くすくすと笑いながら言う女性のその言葉に、ボールトは振り向いて遠くのテーブルを見やる。
幾人かに囲まれ、何やら得意げに話をしていた金髪の青年と目が合った。
まだ少年のあどけなさを残した若者だ。
若者は、それとわかるとボールトに笑顔で手を振った。
「くそガキ、あとで仕置きしてやる」
やや気色ばんでそう言うボールトを、まあまあ、と女性がなだめる。
「いつもここに来る時はあんたが構ってやってるから、寂しいんでしょ。その気が無いんだったら放っておきなよ」
「信じるなよ、リュー」
リューと呼ばれた女性は、はいはい、と頷きながら空になった男の酒瓶を取り上げ、新たな瓶を置いた。
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