君と薔薇のヴァイオリンソナタ

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  優しい音。 上手くはないのだ、決して。 だけどよく響く。 柔らかい響き。 恍惚とさせる。 脳はもはや正常に働かない。 ──薔薇園。 背の低い古そうな西洋風の門に そう記してある。 門は半開きになっている。 なんの迷いもなくそれを開いて進んだ。 薔薇はまだ咲いていない。 冬だから当然だろう。 音をたぐって蕾の薔薇の間を縫うように歩く。 もう曲名も気付いてる。 季節外れだな、ベートーベンのヴァイオリンソナタ『春』。 もうすぐ薔薇園を抜ける。  
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