君と薔薇のヴァイオリンソナタ

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  親に見放されないために弾くバイオリンなんか。 もういらない。 演奏の、音楽の楽しさというものを、俺の身体はもう感じられない。 神童と呼ばれ。 褒められ促されてなんとか 繋いできたバイオリン。 昨日、コンクールの舞台で弾きながら、どんどん心が冷たくなってゆくのを感じた。 気付いたんだ。 もう弾けない、と。 先生…。 先生は何と言うだろう。 きっと気付いてたんじゃないだろうか。 俺の中でバイオリンへの情熱が冷めていくのを、彼は誰よりも近くで見ていたんだ。 分かってたはずだ。 でも何も言わなかったな。 俺が一人で決断するのを待ってたのか。 バイオリンから離れる唯一の気がかりは先生だ。 悲しませてしまう。  
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