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さくはまだ俺の存在に
気付かずに弾き続ける。
俺はただその音に聴き入って、目を閉じて突っ立っていた。
そうすることで、
その間だけは何も考えないで
いられた。
指が回ってない、
舌ったらずなアリアだ。
♪───── くしゅっ
途切れたメロディ。
「トリルできてない。
あとスラーが汚い。
音程、シャープ高すぎ」
我ながらまったく
可愛くないなと思いながらも
口を突いて出るのは
そんな言葉ばかりだ。
それなのに、驚いて振り向いて俺を見つけたあいつの顔は、
ぱっと輝いた。
「わ…かなたくん!来てくれたんだね!」
「別に…お前に会いに来たわけじゃないし」
どこのツンデレ乙女だ、
と自分にツッコミを入れたくなるくらい言ってて後悔した。
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