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彼女は、むーっと頬を膨らませてむくれて見せた。
「じゃあどうして来たの?」
「…別に」
「別にって…理由になってないよ!そういえば学校は?」
説明がめんどくさいな。
「いいから弾けよ」
「え?」
さくはポカンと不思議そうな
顔をした。
「だから、ヴィオラ弾けよ。
俺が教えてやる」
さくは驚いて一瞬目を見開いてから、すぐに顔をほころばせてうなずいた。
「うん!」
季節はずれのあのピンクの薔薇のように満開の笑顔を見ると、妙な気分になる。
だが、不快じゃない。
他人に演奏を教えようなんて、
夢にも思ったことはなかった。
それなのに俺が
見捨てられなかったのは
ただの未熟なヴィオリスト。
だけどその中に眠っている
計り知れない才能を、
確かに感じていたからだった。
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