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♪───────
聴くほどに驚く演奏だ。
弾いている間にも
上達していくように、
曲が進むにつれて
音に深みが増していく。
全体的に見れば
稚拙な演奏なのだけど、
ときどき はっとするくらい
美しいビブラートを響かせる。
柔らかく優しい音の海に
放り込まれて溺れるような
心地よくも
苦しくなる
そんな演奏だった。
「泣いてるの?」
「はっ!?」
嘘だ、気付いたら
なんでか目が潤んでる。
「眠くてあくびしただけだ!」
「ふーん…」
苦し紛れだが、信じてもらえたようだ。
俺は幼い頃からほとんど泣かない子供だった。
最後に泣いたのがいつかも
思い出せない。
だから気のせいだ、きっと。
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