アリアの海で契約を

6/17

61人が本棚に入れています
本棚に追加
/75ページ
  ♪─────── 聴くほどに驚く演奏だ。 弾いている間にも 上達していくように、 曲が進むにつれて 音に深みが増していく。 全体的に見れば 稚拙な演奏なのだけど、 ときどき はっとするくらい 美しいビブラートを響かせる。 柔らかく優しい音の海に 放り込まれて溺れるような 心地よくも 苦しくなる そんな演奏だった。 「泣いてるの?」 「はっ!?」 嘘だ、気付いたら なんでか目が潤んでる。 「眠くてあくびしただけだ!」 「ふーん…」 苦し紛れだが、信じてもらえたようだ。 俺は幼い頃からほとんど泣かない子供だった。 最後に泣いたのがいつかも 思い出せない。 だから気のせいだ、きっと。  
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加