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さくをタクシーに乗せて、
ポケットの財布から一万円札を出してさりげなく運転手に渡す。
私が払うとごねられたら
面倒だからだ。
「ちゃんと家の住所言えよ。
明日は無理して来んな。
ちゃんと休んで風邪治せよ」
いつになく口うるさく
なってしまった。
さくはもはや涙目で、
真っ赤な顔で車内から
俺を見上げて口を開いた。
「うん…あの…ありがと…」
どくん。
「っ…おう」
タクシーは走り出した。
なんだかさっき、心臓が
変なふうに跳ねた感じがした。
胸が締め付けられるような
くすぐったいような…
初めての感覚。
顔が赤くなっていくのが
自分でもわかった。
「…風邪、うつったかな」
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