61人が本棚に入れています
本棚に追加
/75ページ
とりあえず家に向かって
とぼとぼと歩みを進めながら、
俺はぼんやり考える。
バイオリンのこと。
今までの俺の演奏。
先生のこと。
さくのこと。
さくの演奏のしかたを見ていると、幼い頃の自分と重なる。
音楽を純粋に楽しんでいた
あの頃。
自分のバイオリンから
紡ぎ出されるメロディに
ワクワクして
もっと弾きたくて
もっと上手くなりたくて
たまらなかった。
さくは子供みたいだ。
少し、うらやましい。
そんな気持ちはもう
俺にはわからない。
代わりにさくの中に
それを見つけて、
全部託してしまった。
俺のやってることは果たして
正しいことなのか…?
父親は朝方すでに
帰国している。
もう家に着いているだろうと
覚悟して、俺は玄関の扉に手を掛けた。
最初のコメントを投稿しよう!