61人が本棚に入れています
本棚に追加
/75ページ
このまま眠ってしまったら、
俺も凍死するだろうか。
大きく口を開けてあくびをしたら、口元の傷が引っ張られて冷たい空気にぴりりと痛んだ。
父親は、何も言わなかった。
黙って認めてくれたわけではない。あの人はそんな生やさしい人間ではない。
近寄るのも躊躇われるほど
厳しい人間だ。
無言のまま、静かな怒りを
湛えた強い眼で俺を見て
一発
ぶん殴った。
この程度の制裁なら
予想した通りだった。
むしろ彼自身、
俺を勘当したいのは
山々だっただろう。
出来損ないの息子が俺の
目の前をうろつくんじゃない
と、眼がそう言っていた。
母親は泣き叫んだ。
俺のバイオリニストとしての
人生は、終わった。
最初のコメントを投稿しよう!