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弾かせては止め、欠点を指摘して、また弾かせ…を
何度か繰返した後、
今俺の耳に届いているそれは、
一分の狂いも隙も無い、繊細で
完璧なロングトーンだった。
コップ一杯の水の水面のように
波風ひとつ立たず平穏で、
しかし感情を完全に排した
というわけでもなく、
一本通った芯にはまっすぐな
深い祈りのようなものが
眠っている気さえした。
♪───────
ぽた。
まただ。
気付けば涙が零れてる。
なんでだろうか。
俺はこんな弱い奴じゃない。
「かな…」
やばいっ。
俺は慌てて目をごしごし
こすって、無理やりなあくびの真似でごまかした。
「悪い、お前のつまんないロングトーン聞いてたら眠くなった」
思わず余計な憎まれ口を
叩いてしまう。
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