three

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「ま、とにかく。連絡もなしに早退した俺も悪いけど、そうせざるおえなかった状況だったんだから、許してね」 「…別に説教するためにここに呼んだわけじゃねぇ」 「心配してくれてんの?ありがとー」 心配性なさっちゃんに一言お礼を言って、俺は理科準備室を後にした。本来の用事は済ませたんだし、これ以上ここにいる理由もない。 さっちゃんと一緒にお茶しながら雑談ってのもなかなか魅力的だけれど、そんなことしたら昨日のこと細かくしつこく聴かれてしまう。 やだやだそんなの、めんどくさい。 だから早々に切り上げてきた。きっとさっちゃんも気付いてる。 俺がそれを望んでいないってこと。 だから力ずくにでも聞き出そうとも、引き止めようともしなかった。 「優しいねぇ…」 顔よし性格よしのさっちゃんなら、あの我儘でわけのわからない会長よりもモテると思うんだけどなぁ。まぁ本人はそんなの望んでいないんだろうけど。 「――…」 居眠りするくらいならサボられた方がマシだという数学の先生のご意見に応えて、俺の頭にはこのまま教室に戻るなんていう選択肢はなかった。 いつの間にか授業を始めるチャイムは鳴っちゃったみたいだし、後から教室に入ると無駄に注目されるんだよね。理由聴かれてさっちゃんに呼び出しーなんて言ったらまた親衛隊がウザく絡んでくるだろうし。 「――…、」 また、だ。 どこからか声が聞こえる。 授業中なのだから教室から先生の授業の声が漏れてもおかしくないこの時間だけれど、今俺がいるのは中庭だ。よって、よほど大きな声じゃないと聞こえてくるわけがない。 それに、聞こえてきた声はもっと…。 「無茶言うなって」 楽しげだった。 「昼間抜け出すのうちの学校無駄にセキュリティ良いから。…あ?馬鹿、お前は俺を過信しすぎだ。俺に会いたいんだったらお前が来い。…泣くなよ。言っただろ。お前が泣いていいのは俺の前だけ。他のやつに見せんな」 我が眼を疑った。 歩いて行った先、中庭に設置されているベンチに腰かけていたのは紛れもない、あの無表情で無愛想で有名な副会長だった。 しかも甘い言葉吐いてる。 あの副会長が困ったような笑みを浮かべながら、電話で話してる。 これ写真撮ったら親衛隊に高くで売れるんじゃね? だがしかし、そんな都合よくカメラなんか持っているわけがなくて、しかもカメラ機能がついてる携帯もいつもの如く部屋に置きっぱなしなわけで。 もったいないとしか言いようがない。
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