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「なんで変装?」
「気分です」
「偽名は?」
「気分です」
「その性格は?」
「素ですがなにか?」
「だと思った」
心なしか、笑われたような気がする。いやその顔は笑っていないのだが。
ふっ、て。
一瞬だけ表情が柔らかく見えた。
「隠さなきゃいけなさそうな容姿でもないし?」
「…………」
「偽名使うわりにはところどころ甘いとこがあるし」
「………」
「性格変えられるほど器用そうじゃないし」
「…………」
何が言いたいんだこの人は。
というか、今更ながら俺弱味握られてんじゃん。どうすんの、しかもよりによって大魔王もとい恐怖のクールビューティー副会長だし。
「弱味握られたとでも思ったか?」
「……実際そうでしょう」
「嘘つけ。いつでもバレていいようなもんだろ、お前にとってそれは。本当にバレたくない隠し事は…口にも出さない」
「っ……」
なんだこの目…。
なんなんだよ。
図星をつかれた。
なんでもお見通しだって言われた気がした。
俺がこの人にだけ恐怖心を抱いていたわけが分かった。
俺は本能で、この人の性格を見破っていたんだ。
「興味ねぇよ」
「………は」
「お前が隠してることなんか」
「………」
これは…誰にも言わないと解釈していいのだろうか。
確かに、この人がペラペラ人の秘密を話すような性格にはどうも見えないし。ただでさえ生徒会メンバー以外の人と話してるところを見たことがないし…って、じゃあ俺は今なんでこの人と会話してんだ?
本当に数回、しかも会話らしい会話はなく、顔を合わせたことがあるだけだぞ?
「………」
「………」
沈黙が重たい。
これは、なにかはなした方がいいのだろうか。
そういえば以前、さっちゃんがなにかを言っていたような気がする。副会長との話題に困った時は…。
「さっきの電話、幼馴染みの人ですか?」
「…なんで分かるんだ」
驚いたような顔をあげ、まんまるくした目がこちらを向いた。
「珍しく、表情が変わっていたから…」
そこまで驚かれるとは思わなかったから、つい声が小さくなってしまう。
しかし次の瞬間には、俺の方が驚いてしまった。
「…そうか」
口を覆った掌。
わずかに紅潮した頬。
細められた目。
これは…。
「好きなんですか?その人のこと」
本当にカメラないことが残念で仕方がない。
そう思うくらい、いつもの大魔王とはうってかわって今日の副会長はかわいく見えた。
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