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「まさかこんな形でお前と手合わせすることになるとはな」
「俺も意外ー。世の中何が起こるか分かったもんじゃないですよね」
「お前本当に俺の相手するつもりか?」
「…まぁ、しょうがないです。こうなったからには全力で、響潰さなきゃ…ね?」
「させねぇよ」
すでに回りはみんな闘っているというのに、俺たちはまだ対峙しているだけだった。一週間ぶりに会った響メンバーは変わりなく、今日電話で話したばかりのカナタ先輩も大介もさすがに俺の登場には驚いていたみたいだけど。
昨日、抗争があるということは聞いていた。その相手が響だということも、その目的が響を潰すことだということも。
聞いて、驚きがなかったわけじゃない。抵抗が一切なかったというわけでもない。カナタ先輩が俺の相手だということを昨日のうちに知っていたら全力で抵抗していたことだろう。
麒麟が響とずっと争っていたことは知っていたから、麒麟に入ると決めた時、遅かれ早かれこういう状況は避けれなかったということは分かっていた。それを知っても尚、俺は麒麟に…アキの下についたのだ。
だから、今更躊躇うなんてことしないけど…。
「理由があるんだろ?」
「………」
「お前が、麒麟に入ったことも。響を潰そうとしていることにも」
「………」
どちらかというと、この戦闘を躊躇っているのはカナタ先輩のようにも思える。
俺が相手だからだろうと、自意識過剰的なことを思ったりする。
「せっかく仲良くなれたのにな…」
「…ヒロト」
「ごめんね、カナタ先輩」
それでも俺は、躊躇わない。
響を潰すことに今更抵抗を抱かない。
おもいっきり踏み出した右足。一瞬で、その懐に入った。
「っ!?」
カナタ先輩の反応は確実に遅れていたはずなのに、それでも満身の力を込めて放った拳を甘いながらもガードされたのはこの人故のものだろう。
やっぱり、強い。
やりにくくて仕方がない。
「…いきなりご挨拶だな」
「先に謝ったでしょ」
「このことか」
「違うけど」
「だろうな」
「謝ったのは…まぁ、いろいろ?これから倒しちゃうことに対してと、やりにくいと思ってしまうくらい仲良くしちゃったこと」
俺があのとき、電話の盗み聞きなんかしていなければ、幼馴染みを話題に話したりなんかしていなければ、それ日以前のように彼を恐れているだけの存在だったなら。
「俺は、後悔なんかしてねぇけどな」
「…俺もです」
その言葉には、ちょっと笑った。
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