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「嵐くんどうしたのぉ?動き鈍いし…弱くなったんじゃない?」
「………」
「無視はひどいなー」
ヒュッヒュッ、と風をひたすらに切る。どうしてか、アキに当たることはなく、放った拳や足は空を切るだけ。
弱くなった、というのはアキの勘違いだろう。ヤツも本気でその言葉を吐いているわけではなさそうだが。
からかい口調で戦闘真っ最中にも関わらずそういった言葉を放つのは、余裕を見せつけたいからか。もしくは純粋にからかいたいだけなのか。
あいつ…ハルトも何を企んでいるのか分からないが、こいつも何を考えているのか全く分からない。
「なぁ、どう思った?」
「………」
「ハルに似たハルト、気に入ってたんだろ?取られて、ムカついた?それとも何も感じなかった?」
「………」
「まぁそれはないよなぁ。見るからに嵐くん動揺しまくりだし。ショックだった?悲しかった寂しかった?独占欲はあまり強い方じゃなくても、気に入らないだろ?」
「っ、ベラベラうるせぇ」
なんでだ。
どうして当たらない。一発も、かすりもしない。いつもなら、もう決着はついているはずなのに。こんなくだらない抗争に時間をかけるほど暇じゃないのに。
一刻も早くこいつを視界から消したいと思うのに。
「じゃあ、余裕をなくさせてよ。今の嵐くんとの喧嘩、全然楽しくない」
「っ、ぐ…」
蹴りが一発、当てられた。
すぐさまカウンターに持ってこうとしたものの、やはりそれもうまくいかなくて。
「俺を、退屈させないで?じゃないと、本当にハルト壊しちゃうよ?」
「な、に…?」
「何って麒麟に入ったものの宿命?壊れるの。ぜーんぶ。んで俺に尽すの。どんなことでも、リンチでもなんでも自分から進んで受け入れるようになる」
「はっ…」
こいつ、舐めすぎだ。
あいつは、そう簡単に他人に平伏すような性格じゃねぇ。
「ハルトはかわいいからなー。それでいて妙に強気だし。哭かせたいよね、あーいう生意気な子供って」
ニヤリと嫌な笑みを浮かべたアキを見て、胸糞悪くなった。
「綺麗なものって、汚したくなるじゃん?ほら、幼女とか」
「…ハルトは男だろ」
「あれ?そんなこと言うの?そっちの学園の得意分野でしょ。そーだなー…やっぱ強姦とか、いやでも俺が見てる前でマワすってのもおもし」
ようやく当たった拳は、余裕を見せていたアキを吹っ飛ばすには十分な威力だった。
なにかがプツリと音をたて切れた音を、俺は理性をなくした頭のすみで確かに聞いた。
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