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「呆れちゃうね、まったく…」
深い深い溜め息をついたヒロトは、言葉通り呆れた表情で途切れ途切れに呼吸をし、くたばっているアキを見下ろした。
やはり、ヒロトが麒麟に入ったからといって他のヤツらの実力が変わるわけもなく。唯一ヒロトに降参を示したカナタさん以外の幹部は皆勝利をおさめた。
辺りには麒麟がうじゃうじゃ横たわっていて、結構ひどい光景だ。最近抗争らしい抗争がなかったせいか、やはり響のやつらも鬱憤がたまっていたらしい。
「俺は…負けて、ねぇー…」
「負けてる。完璧負けてるよ、アキ。情けなすぎる」
「…とどめささないでよ、ハルト…」
「なに言ってんの?ほら帰るからシャキっと立って!!」
「うー…男らしい…」
「…呆けたの?」
辛辣な言葉にアキは表情を歪めながらも、どこか嬉しそうにヒロトの肩に腕を回して寄りかかっていた。早々引き上げようとしている麒麟を、嵐が止めないわけもなく。
「おい」
低い声が、響いた。
「麒麟は解散だ。そういう約束だったろ」
「………」
その言葉に、アキを抱えたままのヒロトが無表情のまま振り返る。ジッと一点、嵐だけを見つめていたかと思うと、へらりとした気のない笑顔を浮かべた。
「何言ってるの?」
ゾクリと、足元がすくむような声が発せられる。
「負けたら解散。でも俺は、負けてない。そうだろ?」
「…総長が負けた」
「でも副総長は勝ったね」
「チームを取り仕切るのは総長だ」
「でもアキが負けたらなんて言わなかったね」
「…チームの顔は、総長だろ」
「でも響は総長が、じゃなくて麒麟が、負けたらって言ったね」
「……なぜ、」
どうして、お前がそこまで麒麟をかばう。
嵐が続けた言葉は、俺が今一番、ヒロトに尋ねたいことだ。
麒麟に入った理由はもうどうでもいい。お前のことだからどうせ聞いたところで教えてはくれない。
ただお前が麒麟というチームをかばいたてする意味が知りたい。お前は、他人をかばうような、気遣うような…そんな性格ではなかったはずだ。
「何を言っているの?」
「お前こそ、何を考えている」
「ははっ、またそれかよ?別に何も企んじゃいねぇって何度も言ってんだろ?」
「仮に企んでいても、お前は俺たちに言わないだろ?」
うつ向いた表情が、ふと笑った。
「確かに、そうだ。えーと、麒麟をかばう理由、だっけ?」
そんなん俺が麒麟だからに決まってんだろばか。
それだけ言い残し、ヒロトは姿を消した。
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