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「じゃ、さっさと教えろ」
渋っていてもしょうがない。アキがいいって言うのならいいだろう。
生憎、俺には時間の余裕がないんだ。
「っあー!!でもなぁ、惜しいわやっぱ。こんまま麒麟に入らん?」
「お前が言ったんだろ。契約は初期のままだ。延長なんかしねぇ」
「響にはもったいない…」
「響にも入るつもりはないって」
「え?そうなん?でも…」
「でもなんだよ」
言葉を続けようとしないアキに続きを促す。
回りくどいのは嫌いなんだ。
「ハルトが欲しがってる情報教えたら、お前やっぱ響入るなぁ」
「どういう意味だ?」
「ハルトが探してるやつなぁ、響にいるんだよぉ?」
「……は?」
「平田健斗だろ?ばっちりあっち組にいるよ」
「…まじ?」
「まじまじ」
でも大介も新垣も知らないって…。
響の溜り場であるバーのマスターも知らないと言っていたのに…。
「まじかよ…」
とんだ遠回りをしてしまった。
もしかしたら本名を隠しているのかもしれない。それだったならば、大介たちが知らないと言った理由も頷ける。
ただでさえ喧嘩好きが集まった何の信用もないチームだ。それは麒麟も響も他のチームも一緒。
本名を明かす必要なんかない。
現にハルの名前だって、仲のよかったらしい幹部さえ知らなかったのだから。
「で?誰かは知ってんだろ」
「写真なんかないよぉ」
「特徴は」
「契約中途半端だから、情報もここまでぇ」
にっこりと笑って答えるアキに重い重い溜め息をつく。
契約は成立したと、達成したと言ったのはアキだ。俺が渋っていてもいいよと言ったのはこいつ以外の誰でもない。
それなのに、ここまできてその契約が中途半端だと吐かすのはどの口だ。
「響と行動してたら見付かるってのは分かってたんだよ。そこにお前が情報持ちかけて契約しようなんて言い出すからてっきり麒麟のやつだと…」
「あーまぁ、しょうがないっちゃあしょうがないな。俺そんなこと言ってないし。勘違いドンマイ」
「…はぁ」
「でも嘘は言ってないんだよぉ?ほら、良い子はもう寝る時間だ。そろそろ、帰ってもいいんじゃない?」
「…引き止めたり帰らせようとしたり、忙しいやつだな」
「ハルトのために言ってんだけどなぁ」
「…帰る」
「気ぃつけて」
ソファに体を預けたままだるそうに手を振るアキに背を向けた。
これで埃っぽい溜り場ともおさらば、清々する。
「一週間、楽しかったよぉ。あんがと」
扉を閉める瞬間に呟かれた声は、しっかり俺の耳に届いていた。
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