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気まずい空気が流れる中、いつものように大介に接した俺は随分器の大きな人間だと思う。
さすがの大介も、今日この日に俺が部屋に戻ってくるとは予想だにしなかったんだろう。
インターホン鳴らして扉を開けた時の大介の顔と言ったら。
「皺取れなくなるぞ」
「………」
ぐりぐりと眉間に寄せられていた皺に親指を押し当てていると、無言のまま手を叩かれた。
無言の拒絶は痛いよ、大介ちゃん。
「ねぇねぇ大介ってばー」
「…っせぇな、黙れ馬鹿ヒロト」
「なにすねてんのー」
「すねてねぇ!!いいから自分の部屋戻るなり仁とか言う男の手当てしてくればいいだろ!!」
「いやーそれは勘弁。あいつには今日会いたくない。絶対寝れないもん。寝かしてくんない」
「お前…」
呆れたような視線が突き刺さる。
あー痛い痛い。
目が口ほどに物を言っていらっしゃる。まるで自業自得だろと言わんばかりの目が突き刺さる。
痛いってば。
「大介ちゃんはなにをそんなに怒ってんのさー」
俺なんか悪いことした?
なーんて。
分かってて聞く辺り、本当に自分タチ悪いなぁと痛感する。
いやでも、少なくとも、大介ちゃんに迷惑がかかるようなことは一切してないぞ、うん。麒麟との抗争は俺が麒麟に入る前から決まってたことらしいし、俺大介の相手してないし。
「…敵だろ」
「は?」
「麒麟なんかと同じ部屋にいるのが嫌だっつってんだよ!!」
あらま、すごい嫌われよう。
でもさー…。
「俺もう麒麟抜けたんだけど」
えへっ、と笑みを浮かべおちゃめさ意識して言ってみれば、扉を開けた時のような表情がそこに現れた。
ぽかーん。
背景に言葉をいれるならきっとそんな言葉なんだろう。うん、ぴったり。
「…は?」
「だからー、今日付けで麒麟抜けたのー。そういう契約だったの最初から」
「は?」
「……大介ちゃん、絶対わざとでしょ」
分かりやすく説明してあげたのにも関わらず、呆気に取られた顔は戻らない。まぬけな顔は珍しいから別にいいんだけど、そう何回も同じこと説明したくないってのが普通の人間の心理だろ。
「…契約?」
「そ。契約。だから敵じゃないよ、よかったねー大介」
「…………」
「…大介?」
「………、…寝る」
「へ?」
何度か口を開け閉めして何か言いたいことがあるんだろうなーと思いおとなしく待っていたのに、出てきたのは寝るの一言。
今度はこっちが呆気に取られてしまうのも束の間、大介は本当に自分の部屋へと戻っていってしまった。
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