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ここはどこだ?
――寮だろ。寮の俺の、部屋。
何をしている?
――大介と、水橋とジンと…飯食ってる。
楽しいか?
――…楽しいね。
目的を、忘れたか?
「………」
忘れるわけ、ないだろ…。
「悪い…」
「ヒロト…?」
心配の色を見せたジンの表情。それに小さく笑って返して、俺は席を立った。
「今日部屋で寝るから…食い終わったら出てってくんね?…大介には悪いけど」
「は?矢崎なに言ってんの。具合悪い?」
「…俺、ヤだからね」
「具合は悪くないよ。ただ眠いだけだから。ジン、我儘言うな」
「やだっ!!!」
怒号のようなその張り上げた声に、大介も水橋も驚いたように顔を上げてジンを見た。唯一それといった反応を示さなかった俺を、涙目で睨むジンは頬に滴を伝わせていた。
「やだ…、ヒロトがここにいるなら俺もここ残る…っ。一緒にいる。今日だけは嫌、ヒロトの命令でも、おれ、聞かないから…っ」
「ちょっ、ジン。お前泣くことないだろ…」
やだやだと、突然泣き出したジンに戸惑う水橋。そしてその様子をじっと見ている大介。
何かを勘付いたのか。
何かを感じとったのか。
その瞳に宿る光は強く、確かに俺が何を言っても聞かないだろう。
ふぅ、と溜め息をつき、背持たれに体重をかけると、大介の目がこちらを向いてることに気付いた。
「……水橋、行くぞ」
「…は?おい、ちょ、大介!?」
目が合い早々、目をそらされ水橋の腕を掴むと、大介は玄関に向かって歩き出した。半ば引きずられるような形の水橋は、その強情さには諦めているらしくされるがままとなっている。
「大介ー。ジンも連れていって?」
「無茶言うな」
「だよねー」
やっぱ無理か、と溜め息。
できれば連れて行ってほしかったけど、このびくとも動かない猫のように大介を警戒しているジンを連れていくのは骨が折れるだろう。
「大介」
ドアに差し掛かり、今にも部屋を出ようとする大介の背中に一言。
「ありがと」
小さく小さく呟いた。
「ばか。夕方には帰ってくるから飯作っとけよ」
そう言って、部屋を出た。
ジンと、俺と。
ふたりきりの部屋には当然のように沈黙が落ちる。
残ったのはジンの勝手。俺が泣き続けるジンを見守るも慰めるも、そんな義理ないだろう。
そう思い、食器を片して早々、部屋に戻ろうと自室のドアの前に立つと、ドンッと背中に衝撃を感じた。
「ヒロト…」
呼ばれた名前。
腹に回された手。
それはゆっくりとシャツをくぐり、妖しく腹筋を撫でた。
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