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―――…。
ふ、と急に意識が浮上する感じ。一本の糸が、魂に繋がれていてそれをくいっと引かれたような、そんな目覚めだった。
薄暗い部屋の中、俺はゆっくり閉じていた瞼を持ち上げ、現状を理解しようとまず脳の覚醒を待つ。
「ん…」
身じろぎした隣の物体。
素肌に直接触れたシーツの感触と、抱きつくように回された腕。
「ヒロ、ト…」
寝言でも尚、俺の名前を呼ぶ声。それは、言わずもがなジンのものだった。
今この光景を俺たち以外の第三者が見たならば、事後だと勘違いするのは仕方のないことだとは思う。
俺全裸だし。
もちろんジンも。
薄暗いベッドの上に恋人よろしく寄り添いながら寝てたし。正確に言えば、ジンが勝手に抱きついてきただけなんだが。
見下ろした自分の体に、予想はしていたものの、実際目にするとぎょっとするものがある。
散らばる紅い痕。
その名はキスマーク。
「………はぁー」
もはや溜め息しか出なかった。
寝る前の記憶なんて当たり前のようにない。それどころか、部屋に入った記憶すらない。
意識の最後は、抱きつかれ、腹をまさぐられ、それをやんわりと拒否したところまでだ。
「…たるい」
何をどこまでしたのか。
それは今俺の隣にすぅすぅと呑気に寝息を立てているこいつしか知らないんだろう。
ジンとこういうことをするのは、実は初めてじゃなかったりする。
初めは…無理矢理だったような気がするが。それでも、全力で抵抗した記憶も、嫌だったという記憶もないからそれなりに受け入れてはいたんだと思う。
『ヒロト…。俺、軽蔑されちゃった』
努めて明るく、笑顔で。
痛々しくて見ていらんなかった。今にも崩れそうになっていたその体を支えるように抱き締めたのは、他でもない、俺だった。
そこからはもう泣き落としに近い。
泣かれて、懇願されて、押し倒されてキスされて。
もういーや、と諦めた頃には互いに全裸で。
今なら確実に殴り蹴り、全力で阻止するだろうが、まぁ子供だったし、思春期でもあったからそういうのに興味なかったとは言えないし。
一番の理由は、あの頃の俺は、本当にトモダチというものにはとことん甘かった。
どのくらい甘いって、そりゃもう泣いて懇願してくるジンを抱いてやるくらいには。
っていうか今日は抱いたのか?
そういうダルさはないから、その場合ジンが上に乗ったんだろうが…。
「…やめた」
考えても仕方がないと諦めて、ジンの顔にかかっていたその前髪をさらりと優しく払った。
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