five

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時間を見れば、もう3時を過ぎていた。 何時間寝たのかも分からない。 とりあえず着替えようと、起き上がりベッドから出ようとしたが、その寸前で腕を掴まれ阻まれてしまった。 「どこ行くの…?」 不安気な声が小さく響いた。 振り返ると、また泣きそうな顔がそこにある。掴む手もわずかに震えていた。 「…着替えるだけだ」 「………」 安心したのか、すっと手は離れ俺を解放した。 クローゼットから出した服と下着。脱ぎ散らかっていた服を再び着ようとは思わなかった。 「ヒロト…」 着替えている後ろから、ぽつりと言葉を落としたかのような小さな声。 「またどっかに消えちゃうことなんて、しないよね?」 「…しねぇよ」 「そっか」 じゃあいいや、とでも言うようなその返答に眉根を寄せる。 一体何を思っているのか。なにをそんなに不安に思っているのか。 分からない。 俺という人間が、簡単に消える存在だとでも思っているのだろうか。 だとすれば、ジンはかなり優秀だ。 その考えは、あながち間違ってはいないのだから。 俺自身、いい加減落ち着きたいと思っている。 だがそれは、大きな賭けとなる。 完全な自由を奪われるか、唯一無二の居場所を手に入れられるかのどちらかだ。 「ヒロト」 「あ?」 「俺はね、ヒロトが好きだよ?」 「………」 え、今更? なんて言葉を言うほど俺だって空気を読めないわけではない。 なにか意図があるんだろうと言葉を待つが、ジンは薄く笑みを浮かべているだけだ。 「…ジン」 「でも、ヒロトは神楽が好きなんだろ?」 「………そういう好きじゃねぇよ…」 「同じだよ」 今までお前はなにを見てきたんだという意味を込めて言ってみたが、ジンの表情は変わることなく切り返された。 「だって一番はあいつに変わりはないんでしょ?」 「あぁ」 それはもちろん。 そう返せば、苦笑いで返される。 「ヒロトに特別ができるのはいつになるんだろうね」 「…なぁ、なんで俺ら恋バナしてんの」 女子高生かよ。 いい加減うんざりしてきて、話題を断ち切ろうと提案してみたが、ジンは鼻から終わらす気はないらしく、あろうことかまた後ろから抱きついてきた。 「おい、ジン」 「やだなぁ…」 「は?」 「ヒロトに大切な人、できるのやだなぁ…」 「………」 大切な、人。 俺にできると思っているのか、コイツは。 「おい、ジ」 「ヒロトてめぇいつまで寝るつも…」 ガチャ、と…。 「り…」 大介ちゃんが、顔を出した。
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