1500円の下駄

2/2
前へ
/18ページ
次へ
心は、痛みを忘れることはなかった…   ある夏の夜、急に胸が痛みだした。 汗がだらだら流れ出てて、とても気持ちが悪かった。 家には誰もいないし助けを求めることもできず、フラフラと洗面所へ向かう。 灯りを点け水を飲む。 喉が焼けたように熱い。 水が喉を通り過ぎたあたりで思い切り吐き出す。 血が混ざっていた。   「ああ、いつからだろうか。こんなふうになってしまったのは…。」   思えば、最初からだったかもしれない。 僕が生まれたときから、ずっと…。   僕が生まれたとき、母は死んだ。 僕は母の顔を写真でしか見たことがない。   父は僕が17の時に死んだ。 僕には父と過ごした記憶がほとんど残ってない。   今、自分の年がいくつなのか分からない。   胸の痛みと共に、心が傷んだ時の記憶を思い出す。   そうやって、記憶を取り戻してきた。 今までも…きっとこれからも…。   また胸が痛みだす。   値札の付いた下駄…。   1500円。     不思議だ…。   過去の僕は何故にこの安下駄を見て心が傷んだのだろう…。   不思議だ…。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加