始まりはその日から

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 散歩の道を土手から商店街に移した。何故か? それはそろそろ昼だからだ。先程、公園にあった時計を見たが、その時の時間は11時43分だった。それが10分前だ。  そして何故、商店街か? それは、もしかしたら魚をくれる優しい人がいるかもしれないと思ったからだ。別に魚でなくとも良いのだが、この身体になってからの今の空いた腹では、何故か魚が食べたくなったのだ。私の中では今は魚気分らしい。  この時点で、私の頭の中からアパートに帰るという選択肢は消え去り、代わりに商店街に行こうという選択肢が生まれたのだ。例え、アパートに帰っても朝もそうだったが、この手もとい前足ではフライパンはもとより箸も持てないので、料理が作れないから無意味だ。  私は、商店街を練り歩く。右を見れば八百屋、左を見れば肉屋。魚屋はまだ見えない。先程、ペットショップ前を通ったが、鳥や猫から始まり蛇まで居たな。私は蛇は苦手だ。  魚屋が見えてきた。だが、この姿で入ってよいものなのか? 試しに入ってみた。さて、どういう反応を貰えるか?  私を見掛けた店員さんが店長さんに何か言っているようだ。もしかして、くれるのか? そんな期待が頭を掠めたが、そんな展開を期待した私は甘かった。店長さんが私を見るなり怒鳴ってきたのだ。 「このクソ猫め! また俺の店の魚を盗みに来たのか!? 出てけ!」  はて? 『また』とは? 私はこの店は初めてなのだが? いつもはスーパーで買い物を済ませる私。なので商店街に来ることは稀だ。それに猫になったのは今朝だ。だから私には不可能なのだが……。  と、ここで一つの結論に達した。もしかして、この魚屋さんは過去に、猫による魚の盗難があったのではないか、ということだ。それなら辻褄が合う。
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