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次に目が醒めたのは夜だった。部屋にあった時計を見ると、20時24分を針が指していた。良く寝たお陰なのだろうか、僅かにあった身体の痛みも完全に引いたがお腹も空いた。実質、まともな食べ物を口にしたのは朝以来だ。それも猫用の缶詰だ。人間のままだったなら屈辱と人としてのプライドで食べなかっただろうが、今は猫だから食べれたのだろう。
しかし本当にお腹が空いた。そんなことを思っていると、あの女性が何やら夕食らしき物を持ってきた。匂いからして『カレー』か。だが、今から食べるのだろうか? 少し遅い気がしなくもない。そして、私の前には器に入った固形物とおぼしき何かが置かれた。私がなかなか食べないのに疑問を持ったのか、女性は答えをくれた。
「あれ? 食べないんですか? 今日のご飯は固形タイプのマグロ味、しかもしらす付きですよ?」
これが『ご飯』なのか? この固形物が? 黄色い箱に入ったバランス栄養食も固形物だが、猫のご飯にはこんな物もあるのか。しかもマグロ味ときたか。しらすがオプションで。取り敢えず味見してみるか。
そう結論を出した私は器に入った女性曰くマグロ味の固形物に口を付けてみた。そして思った。水なり牛乳なりの液体が欲しい。咀嚼する度にカリカリいって歯応えが微妙にある。味はほんのりとマグロっぽい味がする。口の中がボソボソいう感覚のまま食べていると、女性は白濁色の液体『ミルク』を持ってきてくれた。早速、ミルクを舐めながら固形物を食べていく。
すると、何を思ったのか女性はいきなり私に名前を付けようと言ってきた。女性曰く『いつまでも黒猫さんって呼ぶのも可哀想だから』だそうだ。人間の時の名前は『千波 稔(せんば みのる)』だったのだが、今は猫な上にこれを伝える術は私にはない。よって私に猫としての新しい名前が付くことになった。
なんか複雑な気持ちだ。
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