そして出会いは再び

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 さて、現実に戻ろう。  現実に戻った私が目にしたのは、まずは彼女の姿だ。それだけなら問題はない、何せここは彼女の家なのだから。問題なのは、その彼女の手にしているモノだ。彼女の手には何を思ったのか『猫じゃらし』があった。何故だ?  その経緯は知らないが、おそらくまだ寝るには時間があるのだろう。その間の時間を潰すための生き物が、今この場にいる猫という私の存在だ。少し言い方が悪いかもしれないが、大体そんな経緯なのかもしれない。  もしくは、暇潰しではなくただ旦に私と遊びたかっただけなのかもしれない。その可能性もある。おそらくこっちが本当なのかもしれない。 「クロス。ほら、猫じゃらしですよ。私と遊んで下さい」  どうやら後者が本当だったらしい。しかし、猫じゃらしか。私にこれで遊べと? それとも私が遊ばれるのか? 目の前には猫じゃらしが右へ左へとゆらゆらと揺れている。何故かしっかりと目で追ってしまう。私の中の猫としての本能が『追え!』と命令している反面、私の中に残っている人間としてのプライドが『追うな!』と言っている。私はどちらを採れば良いのだろうか。  本能かプライドか。その二つの間で葛藤し悩む私に選択を迫るように猫じゃらしが揺れている。本当にどちらを採れば良いのか。  私の中では、猫の本能の方が今の姿と相まって勢力が強い。しかし、それを取ることは私に人間だったという過去であり、未だに戻ることを望んでいる願いを棄てろという事だと、私の人間としてのプライドが言っている。  葛藤し過ぎて頭が痛くなってきた。私には人間としてのプライドを簡単には棄てることが出来ない。かと言って猫としての本能を抑えることも出来ない。優柔不断ではない、猫の本能の方が強すぎるのだ。
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