そして出会いは再び

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 結論から言おう。私は、本能かプライドのどちらを選ぶかという葛藤に葛藤を重ねた結果、私の身体は猫じゃらしに前足を押し付けるという行為に出た。要は見事に本能が打ち勝ったのだ。葛藤している途中で、一瞬でも『もういいや。なるようになれ』と思ったのが、本能がプライドに打ち勝った理由らしい。これは不覚だった。  そして現在、私は彼女が動かす猫じゃらしを追っているのだが、私の人間としてのプライドは本能に『せっかく彼女が遊ぼうと言ったのだから、方法はどうであれここは譲ってやる』的なことを言っている気がする。これはあくまで私の考えだが。  猫じゃらしを追う私。ふははははっ、笑うなら笑うが良い。などと若干、現実逃避しながらも身体はしっかりと猫じゃらしを追いかけている。恐るべし、猫の本能。  彼女は、猫じゃらしを追い掛ける私の姿を見て、楽しそうに笑っている。 「クロスは猫じゃらしが凄く好きなんですねー。しっかりと追い掛けてますね」  私という人格は好きではない。猫じゃらしが好きなのは、今この身体の主導権を握っている猫の本能だ。彼女の言葉で自己嫌悪に陥りそうだ。あぁ、もうどうにでもなれ。彼女が寝るまで付き合うとしよう。猫の本能よ、彼女が寝たら私に身体を返せよ、と心の中で言っておくことを忘れない。  彼女が寝たのは22時30分ぐらいだった。時計をちらりと見た程度なので正確ではないが、大体それくらいだった気がする。かれこれ一時間以上は、彼女は猫じゃらしで私を惹き付け、私の身体は猫じゃらしを追い掛けるを繰り返していたということになる。  よくもまぁ飽きなかったと言うものだ。もっとも、私は『飽きる』より『疲れる』方だった。疲れたのは『身体が』ではなく『精神的に』だ。確かに精神的には疲れたが、私が猫じゃらしを追い掛ける姿を見て、彼女は笑っていたので幾分か疲れが和らぐ感じがする。錯覚でもよい。最終的には『気分』が物を言うのだから。  さて、彼女は寝た。私も寝るとしよう。寝るのだが、少しサービスと言うのはおかしいが助けてくれた『お礼』と称して、私は彼女が寝ている側まで行ってすぐ横で寝ることにした。  端から見ると『添い寝』にも見えなくないが、断じて違うぞ。私は、そんな気持ちは微塵もない。あくまで助けてくれた『お礼』だ。とにかく寝るとする。  あぁ、今日は本当にいろいろとあり過ぎて疲れる一日だったな。
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