それは恋の始まり?

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「昨日は来れなくてごめんね。代わりに今日来ましたよ」  彼女は雌の白い猫に近づくとそう言った。白い猫は、彼女のその言葉に大きな反応を見せることは無かった。ほんの少しだが尻尾を左右に揺らした程度だ。感情の起伏があまり行動に表れないようだ。変なやつ。  いや、私も充分変か。外見が猫で、中身というか性格は人間で、本能は人間と猫を二分したような猫は、どの世界を探しても居ないな。これは確信できる。まぁ、中身が違っていても端から見れば、ただの黒猫なのだがな。 「あ、そうです! この黒猫さんはクロスって言うんです。私が付けたんですけど、どうですか?」  彼女は、私を紹介する時、私の前足の付け根つまり脇に手を添えて持ち上げると白い猫の前に突き出した。この態勢にするのは即刻辞めて貰いたい。これは、私には耐えられない態勢だ。恥ずかしいのだよ。  私は彼女に、その態勢にされてまでしても、この白い猫はこれに対して、どのような反応をするのかは密かに気になるところだ。正直、気にしてる場合でもないのだが、そこは好奇心が勝る。そして、瞑っていた眼を開き白い猫を見るが、やはり反応はない。  私の強制的な捨て身のアピールとそれに伴う羞恥心を返せ。  しかし、何も反応しないのは不思議だ。少し前のあの時は、そっぽを向くという反応を見せたが、今回は尻尾を揺らす程度だ。私は、この白い猫のことをまだ知らないせいもあるのだろうが、彼女の反応からすると毎度のことらしい。因みに、彼女の反応とやらは『無反応なことに気にしないで話を続ける』だ。馴れだな。  少し、この白い猫のこの無反応さが気になってきた。しかし、私個人では行動に限界がある。仲介役が必要だな。  ……。  うん、この猫のことを知るには、彼女の傍に居るのが効率が良さそうだ。やはり、直ぐに出て行くのは辞めるか。よし、決定だ。  ……さて、私はいつ降ろされるのだろうか?
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