始まりはその日から

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 女性は、暫く私を抱っこして頬擦りしていたが、やっと地面に降ろしてくれた。この時には、女性が猫たちに与えていたご飯はもうなく、猫の数も減っていた。  ちょっと残念に思っていると、頭を撫でられた。女性は私の頭を撫でながら、言ってきた。 「毎朝、ここでご飯あげてるから次も来てね?」  私はこの言葉に対して『にゃー』と言って返事を返した。どのみち、言葉を喋れない私にはこれしか方法は無かったのだ。  女性がいた駐車場を離れて私は、土手を歩いている。土手といっても堤防道路の下の部分をだが、少し背の高い草を掻き分けて進んでいく。  草を掻き分けて行くと、少し離れた場所に、フサフサとした毛並みの良い白い猫がいた。川の方を向いて微動だにしない。何をしているのだろうか?  私は思い切って声を掛けてみることにした。言葉が通じればよいのだが。見た感じメスのようだ。なので、紳士的に話掛けてみることした。 「にゃにゃ~? にゃあ?(どうかしたのですか? お嬢さん?)」  声だけ聞くと恥ずかしいのだが、こうしか鳴けないので仕方ない。さて、反応は……。  ふいっとそっぽを向かれてしまった。な、何が悪かったのだ? 不自然だったか? 紳士的にしたのは? めげずに、再び話掛けてみる。もちろん、話し方を変えてだ。結果は、何回やってもそっぽを向かれてしまう。な、何故だ。  そうこうしている内に、その白猫はどこかに行ってしまった。その場に立たずむ私。なんだ、この敗北感は。猫にフラれる私って……。  その場で、肉球のある前足で額をポンポン叩きながら悩んでいる私。端から見ると奇妙な仕草をしている猫に見えるだろう。実際、冷静に見てみるとそうなのだが。  考えても答えは出てこなかった。それに、この場所に長くいる理由も無くなったので先に進むとしよう。
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