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目を逸らさなきゃと頭のどこかで思う。相手が目を逸らさないのは私が見てるからで、こんな風に見てるなんて失礼だって事も分かってる。
早く早くって思ってるのに、逸らせない。
真っ黒の髪が風に吹かれて少しだけ乱れる。着慣れてない制服もお互い様で。
「りょーおーちゃん♪」
「ッ!あ…イノ…」
「ん?なになに、どないしてん?」
「…何でもないわ」
「えー、何やねん、りょおちゃーん!」
『リョウ』さんがちらりと私を見た後、うるさいって怒った人を放って歩いて行く。私も呼び止める理由がないし、自分の感覚が分からなくてうつむいた。
一目惚れって、こんな感じなのかな。恋なんて遙か昔に体験してから臆病になって、ずっと長い間してない。
初めて好きになった人はもう側にいないし、上手く行く前に砕け散って終わった。それから私は遊びの恋が出来るほど器用じゃないのもあって、誰とも付き合わないまま終わっちゃうのかなって、思ってた。
「あ、唯」
「えっ…」
「? どしたの、顔赤いよ」
「そ、そんな事…」
「風邪?」
「あ、う、うん……かな?」
「そっか。早く終われば良いのにね、入学式」
朱希は、さっきの事を、見てなかった。それにほんの少しほっとした反面、この気持ちを分かってもらえそうになくてガッカリする。
良く聞く『友達の彼氏を好きになりました』みたいな事にならなくて良いから喜ぶべきなのに。
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