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「悟?悟。」
母親の口から出た名前は別の名だった。
(たった五年ぐらいで、息子の名前間違えるなよ。)
「ごめんなさい。トオルよね。あまりにもお父さんに似ていたから。」
悟とは、トオルの父親の名前だ。
トオルは、一言文句でも言ってやろうと、近くの喫茶店に入った。
「元気そうね。あの頃は、私も必死だったのよ。男追っかけて。でも、すぐにあなたの事思い出して、迎えにいったけどいなかったし。」
(すぐ?)
トオルは、一ヶ月家で待っていた。
その後も大家に聞けば施設の場所もわかるはずだ。
全身ブランド女が、捨てた息子を思い出すわけない。
「今はその時の男とは別れて、別の人と結婚して幸せよ。あなたも一緒に暮らさない?」
(今更だろ。)
「悪いけど、俺は今の家族が大事なんだ。あんたにもらえなかった愛情をたっぷりくれる養父がな。」
トオルは急いでその場を後にした。
「青龍学園学生寮?随分いいところに世話になってるのね。」
母親は、トオルを尾行していた。
門に寄りかかり、ニヤリと笑う。
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