俺の過去

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 民生委員の言葉は、トオルには届いていない。    自分は捨てられたのだと気付く。    もう母親は帰って来ない。    体力を取り戻すために、入院した病院で看護師が話しているのを聞いてしまった。    「あの子。母親に捨てられたらしいわ。」    「可愛そうに。母一人子一人だって?母親は男と逃げたらしいよ。」    と。    (誰にも頼らず生きて行こう。)    たった十一歳の子供が、そう決めた。    「トオル君。こちら三上夫妻よ。」    それは、施設に来て一年が過ぎた頃、突如持ち上がった話    養子縁組。    その三上夫妻が、トオルを養子に欲しいと。    行方不明だが、母親がいるトオルは、養子縁組に親の許可がいる。    養子が無理なら、里親でもかまわないと、トオルに会いに来た。    トオルは、その場を逃げ出した。    逃げたのはいいが、行く所もお金も無いトオルは、駅前通りにいた。    周りは、アスファルトでも一部だけ土があり、一本の大きな木があった。    戦前からその場所にある。
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