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「そーいえば、リョウの左隣って誰だっけ?」
まだ主のいない席を見てカズが言う。
ホントは窓際のこの席が良かったんだよな。空がよく見えるから。
「……南」
贅沢な気持ちを抑えて、これから来るであろう、その席の持ち主の名を答える。
「南かぁ……アイツよくわかんねぇよな」
カズの言うとおり、南アキは謎だった。遅刻するのは当たり前で、一限目からいる事は本当に稀だ。誰かと話す所を見たこともなければ、笑っている顔さえも、見たことがないかもしれない。
この日、南は三限目の授業が始まってから、ようやく来た。数学の先生、なべちゃんに「南ー、あんまり遅刻が多いと進路に響くぞー」って言われても、ちょっと顔を上げただけで、特に反応も無し。南が席に座る時、肩に少しかかるぐらいの髪が、さらさらと揺れた。
「なぁ、なんで遅刻したの?」
何となく、本当に意味もなく、話しかけてみた。
「………寝坊」
返ってきたのはこの一言だけ。オレはオレで、「ふーん」とだけ言って、初めての会話は終了。面白みも色気もない、ただの会話。 一つだけ思ったのは、コイツこんな声してるんだってことだった。
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