なんで

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「中丸くん、落ち着いて聞いて?これは上田くんについてだから」 うなだれたまま目だけで田口を見上げる。田口は椅子に腰掛け眉を僅かに下げて、でも真っ直ぐに俺を見つめていた。 「…お医者さんが言うにはね?衝撃を受けた時、上田くんの中で一番大切だと思ってるものが消えてしまったんじゃないかって。記憶喪失になると、そう言うこと、少なくないんだって。事故に遭った瞬間、隣に居たのは中丸くんだよね?だから尚更……中丸くん?」 「……上田、言ってくれたんだ……今が幸せだって…あの時、何でそんなこと言うんだろうって嬉しかった反面、ホントは、すげぇ不思議だったんだ…」 「上田は…もしかしたら、何か感じてたのかもしんねぇな」 赤西の言葉で、視界が大きく歪んでいく。でも直ぐに生温いものが頬を伝った。 聖が背中をそっとさすってくれる。でも、今俺が欲しい温もりは聖じゃないんだ。ごめん、聖…ごめん、竜っ…ちゃん。 俯いて止まらない涙を拭う力も無かった。どうしたらいいのか、正直、分からない。今はただ、泣くことしか出来ないでいた。
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