始まりの序曲

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 一葉は地元の中学校から、私立桂川学園にサッカーのスポーツ推薦で入学した。  そして徹底的に管理されている中で、必死に頑張っていた。  頑張って、頑張った結果が、二年でレギュラー獲得だ。  メンバー全員が『おめでとう!』と言ってくれたものの、内心は妬みが酷かった。  それでも、一葉は大好きなサッカーを続けるために必死になっていた。  その矢先のことだった。  一葉の好敵手であり、親友でもある河野敦【コウノアツシ】が、サッカー部の監督から性的暴力を受けていたのだ。  部内ではその事が噂になっており、一葉は『そんなのはただのデマだ!』と突っ撥ねていたのだが、練習が終わり三年生と一緒に部室に向かっていた時。  その場面に遭遇したのである。  三年生は一葉を必死で止めたのだが、敦にひどいことをしている監督が許せず、三年生の制止の手を振り払い、殴ったのである。  当然、この事件は学園側に明るみになった。  しかし、学校側は敦がレギュラーを取るために体を売ったということで、監督の非を認めようとしなかった。  一葉と一緒にいた三年生も『知らない。』と言い張り、ショックを受けた一葉は怒り、その場に居た教頭を殴ったのである。  被害を受けた敦の両親はすぐさま、警察に被害届けを出して事件を世間に公表した。  性的暴力をしたということで、監督は逮捕。  事件を揉み消そうとした学校の理事・学園長・教頭も書類送検された。  更に警察の調べで、過去に同じことが繰り返しされては、学校が揉み消し続けていたことが判明。  結果として、私立桂川学園は崩壊したのである。  在籍していた生徒は編入を余儀なくされたが、編入金やそれに掛かる費用は全て学校側が負担することになっていた。  また、各分野の大会に出場する生徒たちも、出場権はあるものの、全員が棄権をした。  サッカー部もである。  自分のしたことが最悪な結果を招いてしまったと自分を責めた一葉だが、誰一人が彼を責めなかった。  逆に『お前のおかげで助かったよ。ありがとう。』と感謝されたのだ。  話を聞くと、昔から監督は気に入った部員がいると同じことを繰り返していたというのだ。  三年生はそれを知っていながらも、必死に耐えていた。  耐えながらも、後輩たちを人身御供にしていたのだ。
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