始まりの序曲

6/8
前へ
/95ページ
次へ
 授業が終わるまで、誰かが通り掛るまで、この場でいようと思ったその時だった。  どこからか、歌が聞こえてきたのだ。  聞き覚えのあるその歌に、一葉は辺りをキョロキョロと見渡しながら再び歩き始めた。  階段を下り、更にその先に行くと光が見えてきた。  その光に向かって歩いていくと、そこは緑溢れる庭園のような場所だった。  どうやら、一葉は学校内にある中庭に出てきたようだ。  上履きのまま、芝生の上を歩いていた一葉は、耳に入ってくる歌がだんだんとはっきりと聞こえるのを確信し、その方角へと向かった。  すると、一葉の視界には半透明のビニルハウスが入ってきたのだ。  半透明のビニルハウスの中は植物がたくさん見える。  その中央には、真っ白な物体が動いている。  どうやら、人のようだ。 (助かった・・・。)  一葉は安堵のため息を吐いた。  そしてビニルハウスの入口を探して見つけると、真っ白な物体に向かって声を掛けた。 「済みません!」 「はーい?」  一葉の声に返事が返ってきた。  もぞもぞと動いていた白い物体は、背後にある入口の方を振り返る。  白衣姿の、一葉よりは少し身長の低い男性だった。  服装や顔立ちからして、学生じゃないのは間違いない。  相手も不思議そうな表情で一葉を見ながらも、ニコッと笑みを浮かべて口を開いた。 「あれ?授業は始まっているよ?サボタージュ?」 「違います!今日、転入してきたばかりで校内を迷ってしまいました。教室に戻れなくてどうしようと思ったら・・・。」 「転入生?君が?」 「はい。二年三組の早瀬一葉です。」 「二年生・・・。だからか、俺が転入生の情報を知らないのは!」
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

248人が本棚に入れています
本棚に追加