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授業が終わるまで、誰かが通り掛るまで、この場でいようと思ったその時だった。
どこからか、歌が聞こえてきたのだ。
聞き覚えのあるその歌に、一葉は辺りをキョロキョロと見渡しながら再び歩き始めた。
階段を下り、更にその先に行くと光が見えてきた。
その光に向かって歩いていくと、そこは緑溢れる庭園のような場所だった。
どうやら、一葉は学校内にある中庭に出てきたようだ。
上履きのまま、芝生の上を歩いていた一葉は、耳に入ってくる歌がだんだんとはっきりと聞こえるのを確信し、その方角へと向かった。
すると、一葉の視界には半透明のビニルハウスが入ってきたのだ。
半透明のビニルハウスの中は植物がたくさん見える。
その中央には、真っ白な物体が動いている。
どうやら、人のようだ。
(助かった・・・。)
一葉は安堵のため息を吐いた。
そしてビニルハウスの入口を探して見つけると、真っ白な物体に向かって声を掛けた。
「済みません!」
「はーい?」
一葉の声に返事が返ってきた。
もぞもぞと動いていた白い物体は、背後にある入口の方を振り返る。
白衣姿の、一葉よりは少し身長の低い男性だった。
服装や顔立ちからして、学生じゃないのは間違いない。
相手も不思議そうな表情で一葉を見ながらも、ニコッと笑みを浮かべて口を開いた。
「あれ?授業は始まっているよ?サボタージュ?」
「違います!今日、転入してきたばかりで校内を迷ってしまいました。教室に戻れなくてどうしようと思ったら・・・。」
「転入生?君が?」
「はい。二年三組の早瀬一葉です。」
「二年生・・・。だからか、俺が転入生の情報を知らないのは!」
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