HEART TO HEART

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「私、誰かと一緒に学校行ってみたかったんです」 「え……」 友達がいない……なんてことはないんだろうけど……。 「お友達はいますけど……みなさん車や遠いところに住んでいらっしゃいますから……」 ああ、お金持ちの人って自分の足使わなそうだからな……。 だけど要因がそれだけではないような気もする。人として完成されたような、彼女自身の空気が他人を遠ざけているかのような……。端的に言えば恥ずかしいのだ。 皐真理亜と並ぶことで自らが劣って見えるかのような感覚に陥る。だから大抵の彼女に気がある人間は皆羨望の眼差しを向けるのが精一杯なのではないのだろうか。 それは恵まれているが故の弊害だ。顔や体はどうにもならん。どうしてみようもない。 「……」 「だからさっきみたいにふみきさんが気軽に話してくれるのが嬉しくて」 軽く笑って俺を見上げてくる。控えめに喜ぶその顔に、簡単に眉間が読めて俺は哀れんだ。 「もしかして……迷惑でした?」 俺は全力で否定する。どちらかと言えば喜んでいるんだけど。 「いや、寧ろ喜ぶべきだな、俺は」 「え……?」 先輩は不思議そうに俺を覗きこんだ。意外だったらしいが、俺はこの短時間彼女に好意さえ抱いたものの、敵意など抱きようがなかった。同情かもしれないが、俺だって遠ざけられるという意味では先輩と一緒なのだ。 「俺も似たような感じですから」 俺は元から友達が少ないし、数少ない友達は住んでる場所が離れてる。 「先輩みたいな綺麗な人と一緒にいけるなら、役得です」 これくらいはかっこつけてもいいだろう。少しはロマンチストさ。 それを冗談でとればいいのに、先輩は真っ赤な顔をしてもじもじと、 「あ、ありがとうございましゅ、……あ」 ええと、……噛んだ。 でもその失敗さえよく見えるのは先輩だからだろう。人間はギャップに引かれるものだ。 先輩はそれでさらに真っ赤になってたけれど。 その後、俺達は互いに知らないことを話したり、いろいろなことを語り合った。 好きなものはなにか。 苦手なものはなにか。 そんな些細な話を延々と。 でもどこかそれは友人たちのような姿で、俺の通学路を彩るには十分すぎる。 なにより、彼女が俺と対等に話してくれたのが嬉しかったのだ。
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