2667人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ──」
彼女は俺の制服についてる何かに気づいたらしく、
「その校章、私と一緒の学校ですね!」
「ああ、そういえば……。あんたの制服、うちの学校のだよな?」
こんな人学校にいたか?
あいにく他人に関しては、あまり自分から立ち入ることがないので、同校の人間でも興味は沸かない。
「はい。私は二年生の皐真理亜(さつきまりあ)と申します」
二年生だったのか……、マナー違反をしていたな。
「申し訳ない、タメ口で」
「いえ、大丈夫です。お名前は?」
「斉藤ふみきです」
「ふみきさんですか……いいお名前です」
「そうですか?」
先輩には悪いが俺はこんな名前をつけた親のセンスに少々異常を感じる。女子名で印象づけられることが多いので、ぶっちゃけ好きじゃない。
それでも先輩は、
「響きがとってもきれいだと思いますよ」
「そいつはありがたい。多少なり喜べるってもんです」
親父たちも同じことを考えたんだろうか? だとしたら彼らにも少しは感性があるということなのだろう。いや、知らんけどさ。
「俺からすれば、真理亜の方が何倍もいい名前だとは思うが。聖女みたいじゃないですか」
「本当ですか? うれしいです……ちょっと照れくさいですけど」
照れっとして、はにかんでるのもまた美人。その表情は純粋で、雰囲気は清純。顔の作りも相まって人受けが良さそうな少女だ。
そして唐突に先輩は俺にこう提案してきた。
「ふみきさん。どうせなら私と一緒に学校まで行きませんか?」
まるで友人のように話す感覚で先輩は誘う。
いきなり何言ってんだろうね、この人。
別に先輩がおかしいってわけではなく。
先輩にどんな意図があるのかわからないが、まあ、いいさ。
こんな機会は滅多にないし、いいんじゃないかと思う。
だから俺は快くそれを承諾した。別に何の問題もないはず。
「いいですよ。一緒に行きましょう。少しの間だけど」
そうしたら先輩の顔が明るくなって、
「はいっ!」
極上の笑顔で答えてくれた。その判断は個々人によるものなのだろうが、畏怖の視線を日常的に浴びている俺には、今まで見てきた笑顔のなかでも至高のものだ。
天使の微笑と形容してみようか。ものすごくいやされる。
最初のコメントを投稿しよう!